秘策あり 目指せ甲子園(上)守備

 第93回高校野球選手権埼玉大会が9日に開幕する。厳しい戦いを勝ち抜くには「走・攻・守」のバランスが不可欠だ。自らの弱点をどう克服し、強さを身につけるか――。独創的なトレーニング方法を考案、実践してきたチームを取材し、その狙いや効果を紹介する。

◇「新体操」で股関節柔らか

 グラウンドに両手、両ひざをつき、背中をそらす選手たち。「いくぜー、セット」。独特の掛け声とともに片方の足をゆっくりあげ、ちょうど鶴が首をあげた格好になったところで静止。今度はその足を90度横に倒す。

 伊奈総合が取り組む股関節の柔軟体操だ。

 2年前、雨天の室内練習中に、新体操部員のしなやかな動きを目にした前監督が考案した。約5分で一連の動作を20回ほど繰り返す。

 簡単なようだが、股関節を中心に強い負荷がかかる。「太ももの内側と尻の筋肉がメチャクチャ痛くなる」(山浦衛主将)。

 でも、効果は出ているという。内野陣は捕球動作の第一歩をスムーズに踏み出せるようになり、守備範囲が1メートルほど広がった。腰を低く保つことで、不規則なバウンドのさばきにも自信が持てるようになった。

 主戦の出羽祐平投手も“新体操効果”を実感。投球フォームの踏み込みが80センチ近く広がり、球速は10キロ増の最速140キロに。「球持ちが良く、体重がボールに乗るようになった。制球力も安定した」と語る。

 守備では送球も重要だ。八潮南は、直線で正確な送球を繰り出せるように、プール下の空きスペース(高さ2メートル、奥行き40メートル)を使った「ロールーフトレ(低天井練習)」に取り組んでいる。

 「山なり」の球だと天井にぶつかってしまうので、直線で球を投げるリリースポイント(球を離す位置)や下半身を使った低めの送球姿勢が自然に身につく――というわけだ。

 5年前、この練習方法を導入した新井茂監督は、「肩が弱くても、捕球や踏み出し、腕の振りがスムーズなら強い送球が可能になる」と説く。

 挟殺プレーやクッション処理など練習メニューは約20種。チームには、天井に球をぶつけ続けた選手はしばらく練習に加われない暗黙のルールがある。「いつも緊張感があるが、おかげで実戦の悪送球が減った」(宝田佳樹三塁手)。

 野球はアタマも使うスポーツだ。特に、守備では考察力や一瞬の決断力が問われる。

 「野球の神様に勝たせてもらうには――」

 南稜では練習後、ストップウオッチを持った女子マネジャーが選手に1分間スピーチのテーマを示す。「まじめにコツコツやる」「集中力を切らさない」。選手はめいめいに声をあげ、自分の考えを表明する。

 「1点差の終盤一死一、三塁。前進守備を選択するかどうか」といった実戦的なテーマも多く、選手に論理的な思考を迫る。栗田秀人主将は“アタマのトレーニング”の成果をこう説明する。

 「守備やゲームプランが崩れかけた時もチーム一体で立て直す方法を考える力がついた」

◇専門家の目

川村卓・筑波大准教授(コーチング学)「体重移動、スムーズに」

 股関節が柔軟であれば、腰を落として捕球に適した低い視線を維持できる。体重移動がスムーズになり、けがの予防にも役立つ。

 送球は角度のついた「山なり」より「直線」のほうが捕球しやすい。助走なしで真っすぐな球を投げるには、指先に込める力、バックスピンを掛けるボールの回転も意識して練習するといい。

 「なぜそのプレーを選択したか」を考える習慣をつければ“次”につながる。論理的思考を養う取り組みは、一昔前の日本野球には見られなかった。

(読売新聞埼玉版)