福島の父に励まされ 花咲徳栄 長尾駿二塁手(3年)

 六回二死一、三塁のチャンスで打順が回ってきた。「甘く入った球は全部打ち返してやる」。初球から思いきり振り抜き、一塁ベースを全力で駆け抜けた。打球は惜しくも左翼手の正面を突いたが、「野球ができるだけで幸せです」と笑顔をみせた。準決勝では先制の足がかりとなる安打を放ち、チームに貢献してきた。

 福島県郡山市出身。中学3年で世界大会に出場、甲子園を目指して花咲徳栄に入った。3月11日の震災当日、100回以上電話を鳴らして連絡がついた家族からは「心配せず、野球に専念して」と逆に気遣われた。地元福島では学校が再開せず、野球ができない友人もいた。「みんなが苦しんでいるのに、自分だけ野球をやっていていいのか」。練習中、もどかしさを感じた。

 「福島のために頑張れ」。迷いを打ち消したのは、大会直前に父市郎さん(52)から送られて来たメールだった。福島から車で2時間半かけて駆けつけた市郎さんは「決勝戦に息子が先発出場しているなんて夢のよう。自分も負けていられない」と、息子の雄姿に勇気をもらっていた。

 「自分が頑張ることで、家族や福島の友人に元気になってもらいたい」。被災地への思いを胸に、さらなる飛躍を誓った。

(読売新聞埼玉版)