センバツへ・駆けろ球児/上 春日部共栄高

◇てっぺんへ「心ひとつ」

 「てっぺんとるぞ」。「よっしゃあ」。威勢のよい掛け声に合わせ、グラウンドに寝そべった選手らが一斉に腹筋を始めた。歯を食いしばりながらも笑みがこぼれる。練習後に行われる筋力トレーニング。全員の前に立ち、掛け声を張り上げるのは元気リーダーの稲葉啓太捕手(2年)。頼まれれば漫才も披露する盛り上げ役だ。

 稲葉捕手は6月の練習試合で送りバントを失敗し、7月の県大会でベンチをはずされた。「バントぐらいと過信していた。練習もただこなしていた」と振り返る。それから、部活が長引くとやめていたバッティングの自主練習は毎日欠かさず続けるようになった。新チームになり、秋の県大会ではベンチ入りしたが、「野球の実力はまだまだ。自分は元気リーダーとしてベンチに入れてもらっているようなもの」と話す。だからこそ「元気」には手が抜けない。ピンチ時に笑顔を保つのは大変だが、「自分がみんなをひっぱらなくちゃ」とバックネットに掲げられた「全国制覇」の横断幕を見上げた。

 夏の甲子園を目指す7月県大会。準々決勝まで進出したが、川越東の高梨雄平投手に完封され延長十四回サヨナラ負けした。竹崎裕麻投手(2年)はベンチからぼうぜんとする先輩たちの姿を目の当たりにした。冬のランニング練習などのつらい練習を共に乗り切った姿を思いだし、うなだれ泣いた竹崎選手の肩を、延長十四回途中まで197球を1人で投げた鎌田恭彰投手(3年)が「来年は絶対に甲子園に行け」と抱いてくれた。新チームでは鎌田投手に代わって自分がエースを担う。「全力でやるだけ」と前を見据えた。

 新チームになり、「てっぺんとるぞ」が合言葉になった。秋の県大会決勝戦浦和学院に0−3で敗れた直後、「打力が違う」と認識したナインらは重さ1・1キロの金属バットを練習に使うようになった。試合用より重いバットに4番打者の鎌田雅大選手(1年)は「打球が遠くに飛ぶようになった」と練習の成果を実感する。一塁側ベンチに掲げられているホワイトボードには「心ひとつ」の文字。「関東大会でてっぺんとるため走るぞ」。誰ともなく掛け声が上がる。ナインらは笑顔で駆け出した。

 関東7県の代表が激突する第63回秋季関東地区高校野球大会が30日、開幕する。来春のセンバツ出場を目指す県勢3校をリポートする。

毎日新聞埼玉版)