それぞれの夢:埼玉大会/下 ベテラン監督と青年監督

◇甲子園へ「絆を強く」

 「春に勝てても夏に勝つとは限らない。いかに当たり前のことができるかが鍵だ」

 春日部東の中野春樹監督(59)は自らに言い聞かせるように、こうつぶやく。

 今年で監督生活34年目。95年の越谷西監督時代に夏の甲子園に出場し、今年の春季県大会で4強入りを果たした。「ようやく淡々と試合運びができるようになってきた」と評する。

 選手に「大人のチームになれ」と言い聞かせてきた。どんな場面でも落ちついてプレーし、確実にアウトを取る。冷静で堅実なプレーを続けることこそが、勝利への近道と考えるからだ。

 長年の経験に裏打ちされた言葉が、チームに次第に浸透していった。それが結実したのが、春季県大会準々決勝の浦和学院戦だった。再々試合までもつれ込む緊迫した展開になったが、選手たちに気負いや迷いはなかった。センバツ8強の強豪相手に5対0で完勝。若月和也主将(3年)は「監督の言葉を信じてやった結果です」と振り返る。

 “中野イズム”を体現する選手たちが、大切にしている言葉がある。「気持ちは一つ、ずっと仲間がいる。『絆』」。試合前や練習後、選手全員で声をかけ合い、チームワークの大切さを確認する。

 来春、定年退職を迎える中野監督は今大会で退任する。中村豪捕手(3年)はいう。「監督と選手の絆を強く太くしたい。そして監督を甲子園に連れて行きたい」

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 「もっと丁寧にプレーしろ」。県立川口高校のグラウンドで、鈴木将史監督(26)の大きな声が響き渡った。今大会出場の157チーム中、最年少の「青年監督」。エースの高窪和希投手(3年)は「一言でいうと熱血監督です」と笑う。

 その監督が心がけているのは「我慢」。試合中に選手がミスをしても、声を荒らげたりむやみに交代させることはない。高窪投手は「投球が乱れても監督は辛抱強く見守ってくれる。おかげで気持ちが切れることが少なくなった」と話す。

 春季県大会は接戦が続いたが、粘り強く守り抜いた。4強入りし、創部70年目で初めて関東大会にも出場した。山下雄司主将(3年)は「監督にもう一度気合を入れてもらい、頂点目指して頑張りたい」と前を見据えた。

毎日新聞埼玉版)