和の力 2012夏(4)髪刈って やる気モード

◇掛け合う声 生まれてきた信頼

 大敗から1週間たった6月24日。悔しさをバネに2回目の合同練習に打ち込んでいると思ったが、集まった選手は12人中、7人。まだ気合全開とはいかないようだ。

 そんな中、鶴ケ島清風の成川和希君(1年)がちょっぴり恥ずかしそうに野球帽を取ってくれた。刈り上げられ短く整えられていた。「本気で野球をやりたくて。前髪でボールが見えにくいから」。少しずつ、前向きな気持ちも芽生えていた。

 両チームとも、合同練習のない平日はそれぞれで練習を重ねている。

 鶴ケ島清風の練習場は学校グラウンドの最も奥で、すぐ近くで陸上部などほかの部が練習している。

 23日の文化祭で腰を痛めた原周平君(2年)。医師から「安静にするように」と言われたというが、気になって練習場に姿を見せた。「じっとしていられないんすっよ〜」

 隣で練習しているソフトボール同好会の細田菜摘さん(同)は「大会出場が決まり、野球部員の声が大きくなった。練習時間も長くなった気がする。頑張ってほしい」とエールを送る。

 マネジャーの染谷穂乃香さん(同)も選手たちの変化を感じている。練習試合で負けて、悔しがる選手たちにうれしくなった。

 「このままで終わってほしくない。越生の選手ともうち解けてきたので全力でサポートする」

 「声が出てねぇ〜ぞ」

 「オ――。コイヤ――」

 埼玉大会まであと10日ほどに迫った6月30日。炎天下のグラウンドは、立っているだけで汗がにじむ。円陣を組んで大声を張り続ける選手たちは、別々の学校の生徒には見えない。練習を重ねるうちに、お互い声を掛け合い、信頼も生まれてきた。アンダーシャツ姿だが、練習着もそろった。

 越生の小田康人君(1年)は「頑張っていることが自信になってきた。楽しい」。鶴ケ島清風の斎藤徹弥君(同)は「練習試合で点を取れたことがうれしい。相手も同じ高校生で、自分が一歩引く必要なんてないと感じた」と話した。

 練習後のミーティングで、鶴ケ島清風の石塚和成教諭(23)が選手たちに切り出した。

 「そろそろ髪の毛を切らないと、試合に出ても様にならないんだけど。みんな、切るの?」

 「開幕までには……」。おずおずと、何人が手を挙げた。主将の鶴ケ島清風、木村真司君(2年)が「(6月19日の)抽選会で髪が長かったのは俺だけ。浮いてて恥ずかしかった」と照れながら告白した。

 「ところで、夏の大会歌の曲名は?」。石塚教諭がたずねた。

 「栄光は……。ぼ、く、ら、に?」

 開幕まであと4日。それぞれの思いを胸に、夢舞台が始まる。

◇山本智也選手(越生1年)

 「頑張ってね」と周囲に言われる。一つでもチームの勝ちにつなげたい。

◇岩城将斗選手(越生1年)

 チームのみんなの明るさに乗っていけそう。やっぱり野球は楽しい。

◇金子稔選手(鶴ケ島清風1年)

 しっかり自分の仕事をして、試合の内外でチームの役に立ちたい。

◇なるほど 埼玉高校野球

◎野球部員の数が多い学校は

(1)春日部共栄…156人
(2)花咲徳栄…128人
(3)大宮東…119人
(4)埼玉栄…118人
(5)上尾…99人

(今大会参加校への野球部アンケートから)

朝日新聞埼玉版)