笑顔続け、最後の夏 転入の川越西高・鎌田選手

 転校から1週間が過ぎた4月23日、鎌田尚幸選手は初めて練習試合に出場し、4番に座った。「打席に入ったとき、ベンチのみんなが応援してくれてうれしかった」。試合から遠ざかっていたため安打は出なかったが、川越西の一員であることを実感した。

 「監督、(盗塁に)行けるときは行っていいですか」。慣れてくると、自分の長所を積極的にアピールするようになった。鎌田選手の売りは守備力と、50メートルを6秒ジャストで走る俊足。練習試合でノーサインで盗塁を決めたこともある。もちろん失敗もあるが、筒井監督は積極的なミスならば決して怒らなかった。

 結果が出なくても筒井監督は起用し続けた。定位置のサードだけでなくショートを守らせたり、先頭打者に置いたり、さまざまな起用法を試した。チームの起爆剤になることを期待したからだ。「双葉高で5番だったというので、『これはいいぞ』と思った。現に戦力になっているし、うちにとってプラスだった」

 鎌田選手の加入はチーム内に競争意識を芽生えさせた。副主将の安田選手は鎌田選手が入ったことによって、三塁手から一塁手にコンバートされた。今は一塁手の福田翔平選手(2年)と3人でスタメンを争っている。

 安田選手は「地震で来たからマイナスのイメージがあるけれど、出会えたのは運命。同じポジションだったということもあるし、自分の中ではいい方に考えている」。主将の沖山選手は「1勝でも多く、1日でも長く“カマ”と野球がやりたい。一緒にできるのは3カ月だけれど、充実した3カ月にしてあげたい」。それは部員45人全員の思いだ。

 「1番山本、2番小林、3番福田…」

 夏の大会の組み合わせ抽選会が行われた17日、ベンチ入りメンバーが筒井監督から発表された。

 「…13番福島、14番本間、15番鎌田」

 鎌田選手のメンバー入りが決まった。

 「名前を呼ばれた時は本当にうれしかった。でも背番号をもらえなかった人もいる。もらったからには、しっかり成績を残せるように頑張る。いきなり来た自分を受け入れてくれた川越西に恩返しをするためにも、甲子園を目指します」。マネジャーから手渡された番号を握り締め、活躍を誓った。

 初戦は7月12日。震災から4カ月後になる。「もう野球ができなくなるんじゃないか」と思った時もある。しかし、白球は新たな仲間との出会いをつなぎ、故郷に残った友との思いを結んだ。過酷な運命にしっかりと向き合った少年の夏は、きっと特別なものになる。

埼玉新聞