純粋な心に涙 岩槻商野球部、避難所で炊き出し手伝い

 丸刈り頭の学生服姿がフロアを駆け回った。被災者のために働きたいと、県立岩槻商業高校野球部の17人が18日夜、避難所となっているさいたまスーパーアリーナさいたま市中央区)で、衣類などの差し入れや炊き出しを手伝った。部員全員の思いを込めた手書きの応援メッセージを渡され、涙ぐむ人も。主将の川又駿貴選手は「喜んでもらえてよかった。野球でも周りを思いやる気持ちが大事だと思う」。この貴重な経験を、今度はプレーに生かすつもりだ。

 須合啓監督(34)は17日夜のニュースで、避難してきた人たちがスーパーアリーナにいると知った直後、アリーナに電話した。「『行きたい』ではなく『明日行きます』」。続いて川又主将に連絡。被災者を勇気づける手紙を書くための色鉛筆と、電池、タオル、絵本など活用できるものを持ってくるように指示した。すぐに連絡網が回った。

 19日には練習試合を控えていたが、川又主将は「練習をやめてでも、こっちを優先させたい」。全員が同じ気持ちだった。18日午前7時半、部員11人とマネジャー5人が学校に集合。9時までメッセージをつづり、2時間の授業を挟み午後5時半まで続けた。

 "できることは何でもやります""笑顔を大切に! 心を一つに!"…。

 アリーナに向かう電車の中でもひたすら書いた。1枚に16人分の言葉やイラストを書き込み、その数250枚。「字は雑になってしまったけど、心はこもってます」とマネジャーの佐藤未奈恵さん。午後6時半前に到着すると、集まった物資を車に積み込んだ須合監督が待っていた。

 物資を2階に運び込み、種類別に分類した。午後7時すぎから豚汁が振る舞われると、湯気に行列ができた。ボランティアの人たちに交じってマネジャーが盛り付け、部員たちが段ボールのお盆で配った。食べ終わると、ごみを回収し、メッセージをしたためた手紙をそっと渡して回った。下田航選手は「笑顔で『ありがとう』と言ってもらえたのが一番うれしかった。家族が笑って話している光景を見て、少し安心しました」と満面の笑みを見せた。

 福島県いわき市から車とタクシー、新幹線を乗り継ぎ避難してきた夫婦は「純粋な心を持ってると思った。優しい心に触れると…涙が出てきちゃう」。一粒の涙が頬を伝った。

 終了後のアリーナ2階フロア。須合監督は部員たちを集めて語り掛けた。「おまえたちの動きを見て感動した。そして感動した人たちの姿を見て、さらに感動したぞ」

 24日から予定していた関西遠征は中止にした。代わりに岩手県大船渡市か宮城県石巻市に赴き、被災した野球場の復旧作業や、避難所で絵本の読み聞かせや紙芝居などのボランティアをする予定だ。

埼玉新聞