新・野球道 甲子園めざして<3>「内面」鍛錬
◇心ぶつけ合い結束力/対人講座・試合前の「遊戯」…
コミュニケーション能力。
西武文理(狭山市)が今年取り組むテーマだ。千葉市から「対人コミュニケーション」の講師を週に1回招いて、部員が教室に集まる。
仲間や監督らへ、口に出しにくい日ごろの思いを紙に書き留め、講師が代わりにで読み上げる。
「先生へ レギュラーから漏れた選手に気を使うのはやめてほしい」
6月上旬、ベンチに入れない3年生の引退試合があった。自分たちより中心選手の練習を優先してほしいという声だ。
刀川正明監督(41)が答えた。「同じ目標へ、結果を出すことに、努力していこう」
ある部員に対しては「早退や遅刻の理由を説明してほしい」との質問も飛びだした。
なぜ、こうした講座が必要なのか?
講師の西田弘次さん(45)はこう説明する。
「携帯やパソコンのメールに慣れた球児に、いきなりひざを突き合わせて対話しろ、といっても難しい。しかし野球では選手たちが面と向かって会話し、意見をぶつけ合うことが必要で、そのための訓練です」
1回約40分の講座では、「相手の目を見てあいさつする」「人にものを頼むときは、まず名前を呼ぶ」といった他人と接する際の基本も教える。
エースの池田拓矢君(3年)は「1人で背負っている気がしなくなった。みんながタイムを数多く取ってくれるようになった」という。
刀川監督は「ピンチを乗り越える力につながれば」と話す。チーム力強化の試みだ。
グラウンドに近い柔道場で、川口青陵の部員がアップテンポの曲にのる。シャドーボクシングやレスリングのタックルの動きをしながら、2人1組になって止まった。
「じゃんけんホイ! あっち向いてホイ!」
勝った部員は、負けた方を従えて、また動き回る。こんどは勝った者同士が「じゃんけんホイ……」。繰り返すごとに歓声が大きくなる。勝ち残った2人の決着がつくと、全員がハイタッチをした。
遊びのようにみえるが、「サイキングアップ」と呼ばれる、気持ちを高揚させるトレーニングだ。仰向けに寝転んで腹式呼吸を繰り返す「リラクゼーション」と合わせて約20分。公式戦や練習試合の前に必ず、行う。
「リラクゼーションで落ち着つかせた気持ちを、サイキングアップで高めて、試合に入っていける。打てない時でも、声が出るようになった」と主将の戸口稜君(3年)。
同校が精神面の対策を始めたのは、5年前。野球部長だった小松崎章監督(46)は、すぐに落ち込んだり、ふてくされたりする選手を見ていた。夏の埼玉大会初戦で大敗を喫したのを機に、スポーツ心理学の公開講座で知ったこのトレーニングを取り入れた。
講師を務めた高妻容一・東海大学教授(55)はいう。
「今の生徒は、根性だ、気合だと言って納得する世代ではないが、重圧で自滅することは多い。心技体のバランスをとることが重要です」
◇メンタルトレーニングは?
取り入れている 19校
取り入れていない 137校
未回答 3校
※取り入れている監督の理由
「自信のない選手が多かった」
「落ち着きをもたせるため」
「自己主張や本音のコミュニケーションができる選手が少ない」
※メンタルトレーニングをしている主将の声
「野球に対する考え方も変わった。試合中も以前より冷静にプレーできるようになった」
「練習に取り組む姿勢が変わった」
今大会参加校へのアンケートから
(朝日新聞埼玉版)