和の力 2012夏(2)新しい自分見つけたい

 「本当は野球がしたい。でも、本格的にするのはしんどい……」

 越生の選手は全員1年生。全員が他部にも所属し、野球一筋ではない。野球は好きだけど、全力で打ち込むその一歩が踏み出せない。弱い気持ちも見え隠れする。

 中学時代、野球部で三塁手のレギュラーだった藤永将大君はサッカー部。渡辺泰輝君は陸上部、小田康人君や岩城将斗君、山本智也君はバドミントン部員の顔を持つ。

 越生東武東上線坂戸駅からワンマンカーに乗り換えて約20分の終点、越生が最寄り駅。校舎はさらに歩いて20分ほど。都心に近い地域から通う生徒は、他校生が途中下車していくなか、終着駅まで乗り続けて登校している。

 越生の田島智裕監督(26)は生徒たちの気質について語る。

 「成績がずば抜けて良い生徒が集まる学校ではない。かといって、素行が悪い生徒もいない。自分の意見をはっきり言わず、これまでに達成感を味わったことがないような目立たない生徒が多い」

 だからこそ、田島監督は連合チームで出場するというチャンスに期待を寄せている。多くの人々が注目する夏の埼玉大会。大きな舞台に備えて練習を重ね、本番を全力で戦えば、きっと自信につながる。これからの生き方にも影響するのではないか、と感じている。

 岩城君は「全く知らなかった他校の人と一緒になり、短期間に名前で呼び合えるなんて不思議な気がする。連合チームの中で、新しい自分を見つけたい」。

 2008年に創立された鶴ケ島清風は部員不足のため、これまでに1回も埼玉大会には出場した実績がない。必要がなかったため、公式試合で着用するユニホームはなかった。

 連合チームでの出場が決まったのは6月上旬。顧問の石塚和成教諭(23)は大急ぎでユニホームを注文した。学校史に残る初出場だけに、スクールカラーの青色を基調にしたい。ストッキングなどの付属品は既製品でそろえたが、ユニホームの納期について業者は「開幕ギリギリになりそう」。

 石塚教諭が気をもんでいたところ、真新しいユニホームが3日、学校に届いた。

 主将の木村真司君(2年)は「シンプルでかっこいい。これを着て、地域の人や学校のみんなにいい試合を見せたい」と初戦へ気持ちを高ぶらせた。

◇友人からエール「気合が入る」

 越生高校のグラウンドで合同練習をしていると、地元の人や卒業生らが練習を見学にやってくる。「地元の学校が大会に出るとうれしい。応援せずにはいられない」と、私設応援団は少しずつ拡大している。

 選手たちは周囲の期待に応えられるか。藤永君は「学校で友人から『負けるなよ』とか言われると、気合が入ってくる」。

◇小田康人選手(越生1年)

 最初は人見知りしてしまったが、面白い仲間。野球の楽しさを思い出した。

◇藤永将大選手(越生1年)

 鶴ケ島清風のみんなに負けないように、越生の存在感を示したい。

◇渡辺泰輝選手(越生1年)

 声をかけ合い、みんなと仲良くなれた。このチームで勝ちたい。

◇なるほど 埼玉高校野球

◎監督が感じている最近の高校球児の特徴

・アピールが下手。自分の意見や考え方を言葉に出せない
・上げ膳、据え膳状態
・厳しい指導に耐えられない。親から抗議がくることも
・様々な情報に踊らされている
・一人の高校生として伸び伸び指導してあげたい

(参加校への監督アンケートから)

朝日新聞埼玉版)