和の力 2012夏(1)越生・鶴ヶ島清風

◇連合チーム「野球」実感

 11日に全国高校野球選手権埼玉大会が開幕する。昨年までは出場できなかった学校も、規則が変わり、今年は連合チームで出場できる。出会ったばかりの仲間と白球を追う日々。泥まみれ、汗だらけ。野球は好きだが、つらい――。目標に向かって、ゆっくり歩き始めた選手たちを追った。

◇練習初日 あいさつぎこちなく

 明け方までの雨は上がっていた。近くの山のほとりに霧が流れる。バッティングケージなどの練習機材はさび付いていたが、少人数で練習するのには十分だ。

 6月16日午後0時半、越生高校のグラウンド。初めての合同練習に集まったのは、越生の1年生5人と、鶴ケ島清風の2年生2人、1年生5人、マネジャー1人の計13人。服装はバラバラ。野球の練習着もいれば、ジャージー姿も。ぎこちないあいさつを交わし、練習に入った。

 ランニング、ダッシュ、キャッチボール、ノックやフリー打撃……。この日のメニューは高校球児にとっては基本的なものだ。

 ところが、しばらくするとポツリポツリと、越生の小川原謙輔教諭(56)のもとに選手が寄ってきた。

 「用事があるから」。2人が練習の輪から離れた。今度はジャージー姿の2人が歩いてきた。「病院に行く」「昨日の練習で肩が痛い」。越生は30分で1人だけになった。

 小川原教諭は古豪・熊谷商の元監督。1985年には選抜大会に導いた実績もある。それだけにもどかしさもある。「自分の本当の姿を出さない、出せない子が多い。強く言うと逆効果。練習に来なくなる。野球は好きだと思うのですが……」と困惑気味だ。

 「レディー・ゴー!」

 大声を掛けながら、体重104キロの鶴ケ島清風の原周平君(2年)が駆け出す。一番、明るくよくしゃべる巨漢がランニングの先頭に立てば、両校の選手とも整列して動き出す。

 丸刈り頭はいない。髪形も好き好き。一見、まとまりはないが一緒に汗を流すと、距離が縮まった。

 「足をそろえてね〜」。そんな選手たちを鶴ケ島清風の石塚和成教諭(23)は優しく見守っていた。

 原君は、春の部活動勧誘会で「入部してくれたら100円あげる」と言って会場を沸かせた。「野球が大好き。冗談でも関心を集めて、試合ができるように人数をそろえたかった」。それだけに連合チームは渡りに船。練習にも力が入る。

 この日、最後まで練習した越生の藤永将大君(1年)は「少人数ではできない練習に取り組め、『野球』を実感できた。鶴ケ島清風のみんなもいい感じ」と目を輝かせた。

 小川原教諭は「鶴ケ島清風と一緒にチームをつくるんだから、越生のみんなも練習に参加しないと。主将の藤永が越生をまとめてほしい」と期待を寄せる。

 開幕まで1週間。多くのチームが「甲子園出場」を目指すなか、越生・鶴ケ島清風の目標は「チーム初勝利」。その裏には、勝って自信をつけたいという生徒たちの複雑な思いもある。

◇中山裕貴選手(鶴ケ島清風1年)

 投手としてしっかり相手打線を抑えたい。気持ちで負けないようにしたい。

木村真司主将(鶴ケ島清風2年)

 大会までの時間を大事にして、メンバーの心を一つにして試合に臨みたい。

◇原周平選手(鶴ケ島清風2年)

 出られるのは変な感じ。でも、うれしい。良いチームになっていると思う。

◇染谷穂乃香マネジャー(鶴ケ島清風2年)

 暑さでこれから疲れが増すので、選手が体調を崩さないよう気を配りたい。

◇連合チーム

 少子化などによる部員不足で大会に参加しない高校が全国で相次いだため、日本高野連は今年5月、部員が9人に満たない高校が連合チームとして公式戦に出場できることを決めた。これまで、連合チームは統廃合を控えた学校だけしか認められていなかった。同じ都道府県の高野連に加盟し、原則として、週2回ほど合同練習ができることなどが条件で、今夏の選手権地方大会から適用になった。

◇なるほど 埼玉高校野球

 県高野連によると、不参加の理由の大多数が部員不足。今大会は「越生鶴ヶ島清風」「福岡・自由の森・上尾鷹の台」などの連合チームが出場する。不参加は2校の予定。

◎埼玉大会の不参加校の推移

2007年…4校
2008年…9校
2009年…7校
2010年…4校
2011年…5校

朝日新聞埼玉版)